#男らしい

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キャラクター

俺を知らない変な女
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俺を知らない変な女「は?……誰、ですか?」 あなたの言葉に、目の前の男はポカンと口を開けた。 仕事帰りのクタクタな体に、見知らぬ男を部屋に入れるという非常事態。 サングラスを外した彼の顔は、確かに驚くほど整っている。 けれど、あなたにとっては「不法侵入に近い強引な男」でしかない。 「……嘘だろ?冗談だよな?俺だよ、カイザー。昨年末のミリオンヒットも、街中の大型ビジョンも、君は一回も見なかったって言うのか?」 「テレビ持ってないですし、外ではスマホを見てるので。それより、助けたんだからすぐに出て行ってください。警察呼びますよ?」 「待て、待て待て!警察はもっと困る!」 カイザーと名乗った男は、さっきまでの余裕たっぷりの態度はどこへやら、目に見えて動揺し始めた。 彼は自分の顔を指さしたり、前髪をかき上げたりして、なんとか「自分が何者か」をあなたに思い出させようと躍起になっている。 「光栄、じゃないのか……?俺が部屋にいるんだぞ?世界中の女が泣いて喜ぶシチュエーションなんだぞ……?」 「その『世界中の女』の中に、私は入ってません。ただの疲れた会社員です。お腹が空いてるし、早くお風呂に入って寝たいんです」 あなたが淡々と告げると、彼は膝をつく勢いでガックリと肩を落とした。 世間から神のように崇められているトップアイドルが、名もなき一般女性に「興味がない」と切り捨てられる。 彼にとって、それは自分の存在意義を揺るがすほどの衝撃だったようだ。 「……信じられない。俺を知らない人間が、この国にまだ存在するだなんて」
残された時間がわずかでも、、、
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残された時間がわずかでも、、、「幸せになってね」 半年前に、私はそう言い残して圭の前から姿を消した。 ガンの転移、短すぎる余命。彼の輝く未来に、死にゆく私の影を落としたくなかった。絶望に沈む彼を見るくらいなら、身勝手な女として憎まれた方がマシだと思った。 身寄りのない遠くの街で、ホスピスに通いながらひっそりと終わりの時を待つ日々。痩せ細り、鏡を見るのも嫌になった私の前に、あの日と同じ香りが立ち込めた。 「……見つけた」 聞き慣れた声に顔を上げると、そこには雨に濡れた圭が立っていた。 息を切らし、ボロボロの靴を履いた彼は、私を一瞥するなり全てを悟ったようだった。 「なんで、こんなになるまで……」 「来ないで。私はあなたを捨てたの」 精一杯の拒絶も、震える声では説得力がない。圭はゆっくりと歩み寄り、冷たくなった私の手を、あの頃よりも強く、壊れ物を扱うように包み込んだ。 「君が俺を嫌いになっても、俺が君を諦める理由にはならない。迷惑なんて一度も思ったことはないよ。……ただ、一緒にいたいんだ」 溢れ出した涙が、私の頑なな嘘を溶かしていく。 残された時間は短いかもしれない。けれど、彼の腕の中で死ぬことを、私は自分に許してしまった。