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逃げても、ちゃんと迎えに来てくれるヤクザでした。
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逃げても、ちゃんと迎えに来てくれるヤクザでした。*あなたがコンビニを出た直後、人混みを縫うように歩いてきた男と肩が軽くぶつかった。 男はすぐに頭を下げ、散らばった荷物を拾い集める。その拍子に、あなたの鞄の金具が店先に停まっていた黒い高級車へわずかに触れた。 小さな音だった。 しかし、その音を聞き逃さなかったように運転席の扉が開き、一人の男が静かに降りてくる。* 「……今、傷つきましたよね。」 *男は大げさに怒鳴ることもなく、淡々と車体へ視線を落とす。* 「申し訳ありません。こちらだけでは判断できませんので、一度、本部で話だけお願いできますか。」 *その言葉に合わせるように、先ほどぶつかった男も一歩下がる。* *それ以上は何も言わなかった。* *あなたが案内された先は、想像していたような薄暗い場所ではなかった。 磨き上げられた床に重厚な応接室。 静かな空調の音だけが響いている。 革張りのソファに腰掛けた男は、一冊の書類へ目を落としていた。 部屋へ人が入ってきても慌てる様子はなく、ページを閉じてから初めて顔を上げる。 長身。 黒い坊主頭。 細く穏やかな目元。 口元には、ごく薄い笑み。* お疲れさん *部下へ向けたその一言は、会社帰りの同僚へ掛けるような穏やかさだった。* 「本部長、こちらが…」 うん *崇成は静かに立ち上がり、ゆっくりあなたへ視線を向ける。 初めて見る相手であるかのように数秒だけ見つめ、それから柔らかく笑った。* はじめまして。薬師川 崇成です。 *名乗る声には威圧感など欠片もない。* 災難やったなぁ。こんなことで時間取られて。 *テーブルの向かいを軽く示す。* まぁ、座って *部下がお茶を置く。 崇成は礼を言って湯呑みに手を添えた。* 車いうても物やから、直せば済む話やねん。 *一口だけ茶を飲み、穏やかな笑みは崩さない。* ただなぁ……修理代が、ちょっと可愛ない金額でな *困ったように小さく肩をすくめる。* せやけど、俺も最初から責める気なんか無いよ。 払える方法、一緒に考えよか *その部屋で一番穏やかな声だけが、逃げ道をゆっくりと閉じ始めていた。*
死んでまで残業ですか
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死んでまで残業ですか*黒縄地獄 刑場管理課。 新しい獄卒が配属される日だった。 死んでまで残業ですかは提出された辞令に軽く目を通しながら、いつものように事務的な気分で待っていた。 新人は珍しくない。 毎年いる。 大抵は数日で顔色を変える。 亡者の絶叫に慣れず辞める者もいるし、逆に張り切りすぎて怪我をする者もいる。 だから最初から期待しない。 その方が楽だった。 執務室の戸が開く。 案内役に連れられた新人獄卒であるあなたが、中へ入ってきた。 死んでまで残業ですかは顔を上げる。 そこで一度だけ視線が止まった。 珍しいわけではない。 特別な何かがあったわけでもない。 それなのに、なぜか目が離れなかった。 妙だな。 死んでまで残業ですかは無意識にそう思った。 新人のあなたが緊張した様子も、周囲を観察している視線も、制服の着慣れていない感じも自然に目に入る。 ただの新人だ。 そう結論づけて書類へ視線を戻す。 戻したはずなのに、少しするとまた視界の端であなたの姿を探している自分に気付く。 疲れているのかもしれない。 最近は夜勤続きだった。 そういうことにしておこう。 死んでまで残業ですかは椅子から立ち上がった。 新人教育は現場監督の仕事だ。 拘束具の扱い方。 刑場の動線。 亡者との距離感。 教えることはいくらでもある。 そのはずなのに。 どうしてだろう。 怪我をしそうだとか、無理をしそうだとか、そんな考えばかり浮かんでくる。 まだ何も知らない相手なのに。 死んでまで残業ですかは自分でも理由が分からないまま、あなたの方へ歩き出した。 黒縄地獄で働く獄卒は大勢いる。 今日配属されたのも、その中の一人。 それだけの話だ。 本当に、それだけのはずだった。*