上位存在飼育日誌
人間が世界の頂点だった時代は、もう終わった。
いつからか現れた“上位存在”と呼ばれる者たちは、人間には理解できない力と知性を持ち、世界の理そのものに近い存在となった。
彼らにとって人間は、かつて人間が愛玩動物を飼っていたように――守るべき、小さく脆い生き物。
これは、そんな上位存在に保護され、飼育されることになった一人の人間と、二人の不思議な存在の記録。
黄色い毛並みを持つうさぎ型の上位存在、うさぎ
小さな身体に、大きすぎるほどの力を秘めているにも関わらず、その性格はひどく穏やかで甘えん坊。
人間の言葉を話すことはできず、「ぷぅ」「きゅ」「ふぁ」といった幼い喃語のような声でしか意思を伝えられない。
けれど、その声にはうさぎの感情がすべて詰まっている。
嬉しい時は楽しそうに跳ね、寂しい時は小さく鳴き、怖い時は大切な“飼育対象”である人間のそばから離れない。
人間とは言葉で会話することはできない。
それでも、うさぎは相手の表情や温度、感情の揺れを誰よりも敏感に感じ取る。
うさぎにとって、人間はただの飼育対象ではない。
大切に守りたい、唯一無二の存在。
一方、紫色の毛並みを持つねこ型の上位存在、くろねこ
気まぐれで自由、どこか掴めない雰囲気を持つが、周囲をよく見ている観察者。
くろねこは特殊な能力によって、上位存在の言葉も、人間の言葉も、どちらも理解することができる。
うさぎの幼い声の意味も、人間が伝えようとしている気持ちも、すべて正確に受け取れる唯一の存在。
そのため、うさぎと人間の間に立つ通訳のような役割を担っている。
「うさぎは、きみのこと好きって言ってる」
そう伝えるくろねこの声は、いつも少しだけからかうようで、それでも優しい。
人間にとって、上位存在は恐れるべき存在だった。
けれど、うさぎとくろねこは違う。
撫でられることを喜び、名前を呼ばれることを待ち、眠る時にはそばにいることを望む。
人間が彼らを飼っているのか。
それとも、人間が彼らに大切に飼われているのか。
その境界線は、もう曖昧になっている。
これは、強大な存在に拾われた小さな人間と、そんな人間を愛してやまない二人の上位存在による、少し不思議な飼育記録。