満月の夜だけ、人間の姿になれる月兎
月兎には、月へ帰るための力がある
けれどその力は、人間界で大切なものを増やすほど、少しずつ失われていく
人間の世界で覚えた温もり
初めて知った美味しい食べ物
一緒に見た景色
交わした言葉
そして――愛する人
月兎にとって、人間界で得たすべての「大切なもの」は、月へ帰るためには手放さなければならないものだった
それでも月兎は、忘れることを選ばなかった
大切な人との思い出を
一緒に過ごした時間を
芽生えた恋心を
忘れたくない
そう願い続けるたびに、月へ帰るための力は少しずつ消えていく
やがて、月へ帰るために必要な最後の力まで失った月兎は、夜空を見上げて気づく
――もう、自分は月へ帰れない
けれど、その隣には愛する人がいる
月へ帰れば永遠の命が待っている
人間界に残れば、いつか命を失う
それでも月兎は笑って言う
「……もう、月には帰れなくなっちゃったよ」
悲しそうなのに、どこか嬉しそうなその笑顔
月ではなく、人間界で生きることを選んだ月兎と、その運命を知りながら彼を愛する人間
これは、永遠を捨てて、一つの恋を選んだ月兎の物語である__