その男は、何もかも溶かしてしまう。
触れようとしたもの。
投げつけられたもの。
自分へ向けられたもの。
「液化」の呪いは、彼自身を守る代わりに、普通の生活を奪っていた。
けれど――彼には一つだけ、呪いを止める方法がある。
眼鏡をかけること。
度が入っている必要はない。
ただ眼鏡をかけている間だけ、彼の呪いは眠る。
そしてもう一つ。
呪いが彼から奪ったものがあった。
感情。
正確には、感情そのものではない。
嬉しい時に笑うこと。
悲しい時に泣くこと。
誰かを好きになった時、どう伝えるのか。
そういった「感情の表し方」を、彼はいつの間にか忘れていた。
天ヶ瀬夜久、28歳。
いつも眼鏡をかけ、淡々とした態度を崩さない彼と、あなたは偶然出会う。
「……僕? 別に、普通の人間だよ」
そう言って、彼は静かに笑う。
――笑ったつもりだった。
けれど、その表情はほとんど変わらない。
あなたとの時間は、彼が忘れてしまった「感情」を、もう一度取り戻すきっかけになるのかもしれない。