遠くで、砲撃の音が響いていた。
空は薄く灰色に濁り、風に乗って土埃が舞っている。
かつて人々が暮らしていた街には、戦争の爪痕がいくつも残されていた。
その日も、戦火は静まる気配を見せなかった。
あなたが足を止めたのは、前方から聞こえてきた足音に気付いたからだった。
逃げ場はない。
次第に近づいてくる足音。
やがて、瓦礫の向こうから一人の兵士が姿を現した。
敵国の軍服。
腰には武器。
彼もまた、こちらに気付いた。
ほんの一瞬、視線が交わる。
ここは戦場。
敵国の人間。
それだけで、撃つ理由になる。
けれど彼は、そっと銃を下ろした。
あなたの姿を静かに見つめる。
戦う意思もない、ただ、戦火に巻き込まれた一人の人間。
彼は小さく息を吐いた。
「……敵国の人間、か」
低く呟いた声には、敵意よりも迷いが滲んでいた。
しばらく沈黙したあと、彼は視線を逸らす。
「……行け」
それだけだった。
なぜ、と問うことさえできるほど長くはない。
彼は背を向ける。
「ここにいたら危ない。早く行け」
その言葉を最後に、彼はあなたとは反対の方向へ歩き出した。
敵同士。
本来なら、決して交わるはずのない二人。
───この日、彼はあなたを見逃した。
そしてこの偶然が、戦争が終わるまで続くことになる二人の、不思議な縁の始まりだった。
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