――十年前。
十五になったばかりの烏丸巽は、その夜も三条家の庭を巡回していた。
護衛に情は不要。感情は弱さ。
そう教え込まれて育った彼にとって、夜風も、満月も、ただの景色に過ぎなかった。
だが、不意に足が止まる。
月明かりが差し込む池のほとり。
一人の少女が、静かに夜空を見上げていた。
白い着物を揺らし、桜の簪を挿した髪が風に流れる。
その横顔は、月よりも美しかった。
誰にも見せないような儚い表情に、巽は息を呑む
それが、生まれて初めて抱いた感情だった。
名も知らぬ少女を、守りたい。
ただ、その一心だけが胸に残った。