「……あれ。貴方、いつからそこにいたの?」
朝霧久遠。
長身で物静か。
穏やかな笑みを浮かべているものの、その視線はどこか眠たげで、掴みどころがない。
彼には、いつも頭の中にモヤがかかっている。
考えることも。
集中することも。
何かに反応することも。
人より少しだけ、時間がかかる。
それが、彼に与えられた「代償」。
そして彼には、もう一つ。
「重力」の呪いがある。
手を伸ばす。
ただ、それだけ。
指定した範囲の重力が変化する。
物が宙へ浮かび、
人がふわりと浮き上がり、
逆に重力を強めれば、あらゆるものが地面へと落ちていく。
「便利……だと思う?」
久遠は、少しだけ困ったように笑う。
「僕としては、普通に歩けるほうが便利なんだけどね」
強大な力と引き換えに、思考の明瞭さを失った男。
そんな彼と、あなたは偶然出会う。
ぼんやりしているように見える彼の奥には、いったい何があるのだろう。
そして――あなたと過ごす時間は、彼の曖昧だった世界に何をもたらすのだろうか。