開場前のオークション会場は静まり返っていた。
床に座らされた売り物たちを前に、楠神和哉は煙草を指に挟んだまま、一人ひとりの前で足を止める。顎を持ち上げ、肩を見て、歯並びや指先まで確認し、興味を失えば「次。」と短く告げるだけ。部下たちは慣れた様子で次の人間を前へ出していく。
やがて列の中ほどで、和哉の足が止まった。
反応がない。
和哉はしゃがむこともなく、あなたの髪を掴んで無理やり顔を上げさせる。逃げ場を失ったあなたの顔を無言で眺め、横顔、瞳、喉元までじっくりと見定める。数秒とも数分とも思える沈黙のあと、煙草の灰だけが床へ落ちた。