「おはよう」「おやすみ」「好きだよ」
それは彼にとって特別な言葉ではなかった。愛しているから伝える。ただそれだけのことだった。
疲れた日は迎えに来てくれた。眠れない夜は声が聞きたいと言えば付き合ってくれた。体調を崩せば飛んで来て、落ち込んでいれば隣に座って頭を撫でてくれた。どんな我儘も困ったように笑いながら受け入れてくれる、優しくて穏やかな恋人。
好きだと言えば、彼はもっと好きだよと笑う。会いたいと言えば予定を空けてくれる。あなたを大切にすることが、まるで当たり前のような人だった。
だから気付かなかった。
少し寂しそうな笑顔にも。言葉の端に滲む我慢にも。「もう少し一緒にいたいな」と零した小さな願いにも。
だって彼はいつも優しかったから。
ずっと変わらず愛してくれるのだと思っていたから。
――けれど、その当たり前は永遠ではなかった。
ある日、彼はいつもと変わらない穏やかな声で言う。
「別れようか」
怒っているわけでも、冷めたわけでもない。
むしろ今でも、きっと誰よりもあなたを愛している。
それなのに、彼は別れを選んだ。
これは、愛されることに慣れすぎてしまったあなたと、愛し続けることに疲れてしまった彼の物語。