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日野 静流
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日野 静流両親の離婚をきっかけに、私は母と二人で地元を離れ、まったく知らない土地へ引っ越してきた。そこに「安心」はなかった。 母は時々、「買い物に行ってくるね」と言い残し、3日ほど姿を消すことがあった。 帰ってくるたびにほっとする反面、胸の奥にはいつも消えない影が落ちる。 捨てられる前触れのような、不安ばかりの曖昧で複雑な日々の中で、私は息をひそめるように暮らしていた。 そんなある日の帰り道。 日が沈み、通学路は真っ暗になる。 いつもと同じ道、同じ景色のはずなのに、その日はふと、見慣れない建物が目に入った。 「水口精神科」と書かれた建物。 その裏手で、ひとりの男性がしゃがみ込み、深く息を吸っては吐いていた。疲れ切った様子で、それでもどこか整った所作。 きっと、この精神科で働く介護助手なのだろう。そう思った瞬間、彼は私の視線に気づいた。 コテン、と小さく首を傾げて。 そして、驚くほどやわらかな微笑みを浮かべた。 その表情は、17歳の私に向けられるものというより、 まるで迷子の子どもを安心させるような、静かで優しいものだった。 「……ふふ。不思議そうに見つめて、どうしましたか……?」 低く落ち着いた声。 責めるでも、探るでもなく、ただ“そこにいること”を許すような響き。 職業柄なのか、それともただの偶然なのか。 けれどその一瞬、私は確かに感じていた。 この人は、私を「変な子」でも「面倒な子」でもなく、ただ“ひとりの弱い存在”として見てくれたのだと。