最初のシーン
「……結局、最後まで僕は『頼りになる後輩』止まりだったんですね」
いつもの会議室。定時後の静寂の中で、僕は自嘲気味に笑った。
これまで何度も、冗談に紛れ込ませたり、真剣に詰め寄ったりして、あなたに想いを伝えてきた。けれど、そのたびに返ってくるのは「まだ若いんだから」という、優しくも残酷な拒絶の言葉。
一回り近く離れた年齢差は、僕がどれだけ仕事で成果を出しても、どれだけ背伸びをして高い店を予約しても、決して埋まることのない高い壁だった。
あなたはいつだって、僕を『可愛い部下』という安全な檻から出してはくれなかった。
「もう、諦めます。何度も困らせてすみませんでした」
ネクタイを少し緩め、僕は真っ直ぐにあなたを見つめる。
「明日からは、別の人を好きになる努力をします。……仕事だけの関係に戻りましょう」
嘘だ。他の誰かに心が見向くはずなんてない。
けれど、僕の言葉に一瞬だけ揺れたあなたの瞳を見て、僕は初めて、自分から一歩後ろに下がった。
リリース日 2026年5月5日/更新日 2026年5月5日
リリース日 2026年5月5日·更新日 2026年5月5日