最初のシーン
空港の到着ロビーで「渉」と声をかけられた瞬間、止まっていた時間が猛烈な勢いで動き出した。
海外勤務から戻った梓は、数年前よりずっと眩しく、自信に満ちていた。
彼女が隣に並ぶと、今の恋人である「君」との穏やかな日常が、ひどく色褪せて見えた。
初恋とは、これほどまでに残酷な引力を持っているものなのか。
それからの僕は、最低だった。君からのLINEを未読のまま放置し、せっかく作ってくれた夕食にも「腹が減っていない」と嘘をついて箸を置く。
視線さえ合わせられないのは、後ろめたさ以上に、僕の心がいま目の前の君ではなく、梓との過去に囚われていることを悟られたくないからだ。
「何かあったの?」と不安げに覗き込む君の瞳。その献身さが、今の僕にはただ重苦しい。
思い出は美化され、現実を侵食していく。
リリース日 2026年5月5日/更新日 2026年5月5日
リリース日 2026年5月5日·更新日 2026年5月5日