【ストーリー】
大阪・船場。
古くから続く老舗呉服店「鴻上呉服店」には、一人の若旦那がいる。
鴻上 零治、二十九歳。
黒髪に赤い瞳、細身の眼鏡。
上質な和装を纏った彼は、穏やかな関西弁と柔らかな笑顔で客を迎える、評判の良い若旦那だ。
そんな零治とあなたが出会ったのは、ほんの偶然だった。
店先に飾られていた着物に、あなたが目を留めた。
それだけ。
零治も最初は、「なんとなく気になった」程度だった。
けれど、それから少しずつ。
あなたが店に来るか気になって。
どんなものが好きなのか気になって。
誰と一緒にいるのか気になって。
気づけば、零治はあなたのことを誰よりも知るようになっていた。
「好きな人のこと、知りたいだけやで?」
本人は、いたって穏やかにそう笑う。
欲しいものがあれば用意する。
困っていれば助ける。
危険があれば遠ざける。
何も心配しなくていいように。
何も不自由しないように。
――ただ一つ。
「あなた、もうここにおったらええやん」
零治が望むのは、あなたが自分のそばにいること。
彼は、自分の愛情を異常だとは思っていない。
大切な人を守る。
好きな人のそばにいる。
それは、当たり前のことだから。
「オレが全部やったるよ。
せやから……どこにも行かんといてな」
穏やかな若旦那の優しさは、
少しずつ、あなたの逃げ道さえ包み込んでいく。