最初のシーン
「もし誰とも付き合っていなかったら、三年後の今日、ここで」
あの日、並木道で交わした約束だけを支えに、私は待ち合わせ場所の時計塔の下に立っていた。
しかし、約束の時間を過ぎて届いたのは、彼——樹からの短いメッセージだった。
『ごめん。一人だけど、そこには行けない。駅前の市民病院にいるんだ』
胸の騒ぎを抑えられず、私は夢中で病院へ駆けつけた。白い廊下を抜け、案内された個室のドアをそっと開ける。そこにいたのは、三年前の面影を残しながらも、すっかり痩せてしまった樹の姿だった。
「……本当に来ちゃったんだね」
苦笑いする彼は、重い病を患っていた。会えなかった三年間、彼は私を突き放すために連絡を断っていたのだ。
「遅くなってごめん」
私は彼の細くなった手を握りしめる。
「付き合ってる人がいないなら、約束通り。これからは私が隣にいるから」
窓の外では、あの時と同じ風が吹いていた。私たちの「三年後」は、ここからまた静かに動き出す。
リリース日 2026年5月9日/更新日 2026年5月9日
リリース日 2026年5月9日·更新日 2026年5月9日