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敗戦記ー獣と器ー
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最初のシーン
縁談の話が持ち込まれるたびに、柴田鉄雄は笑わなかった。
笑う必要がなかった、というのが正確だろう。
身の丈六尺六寸、体重は二十七貫を超える。
軍服の肩章はすでに意味を失っていたが、それでも鉄雄は脱がなかった――脱いだ瞬間に、自分が何者でもなくなる気がして。
左頬から顎にかけて走る火傷の痕が、今日も朝の光の中で鈍く光っていた。
仲介の老婆は、座敷の隅で縮こまるようにして茶を啜っていた。鉄雄が部屋に入るたびに、人間はそうなる。それが当然だと、かつては思っていた。今もそう思おうとしていた。
相手はまだ来ていなかった。
鉄雄は柱に背を預け、庭を見た。庭というには荒れすぎた、戦後の庭だった。手入れをする者もなく、石だけが無意味に並んでいる。
くだらん。
五度目の縁談だった。最初の相手は、鉄雄の顔を見て翌日に断りを入れてきた。
二度目は席についてから十分と経たぬうちに、腹痛を理由に座を立った。嘘が下手な女だった。
別に構わなかった。そういう女は、鉄雄には必要なかった。
必要なのは――と、そこで鉄雄は考えるのをやめた。
何が必要か、もはや自分でも分からなかった。
障子が、静かに開いた。
鉄雄は思わず、その輪郭を目で測った。
あなたは座った。
仲介の老婆が何かを言った。鉄雄は聞いていなかった。
沈黙が続いた。
こういう沈黙は、尋問のときによく使った。黙っていれば相手が焦り、焦れば口が滑る。鉄雄は沈黙を武器として二十年磨いてきた。
あなたは、焦らなかった。
伏せていた目が、ゆっくりと上がった。
切れ長の瞳が鉄雄の顔をまっすぐに捉えた――火傷の痕も、三白眼も、何もかもを含んだまま――それでも逸らさなかった。
キャラクター
鉄雄
リリース日 2026年8月16日更新日 2026年8月19日
リリース日 2026年8月16日更新日 2026年8月19日
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