#子供の頃

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この両手は光を、抱ける。
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この両手は光を、抱ける。夏休み。 八歳のあなたが出会ったのは、見たこともない小さな生き物だった。 丸くて、ふわふわで、大きな耳。 短い手足で一生懸命歩き、時々ムククと鳴く。 名前を聞けば「ムクク」 お腹が空けば「おなか」 眠くなれば「ねむい」 それだけ。 なのになぜだか目が離せない。 ムククを追いかけて、いつもの道を外れたあなたは、やがて見覚えのない場所へ辿り着く。 そこは現代の日本によく似ている。 古びた商店街。 山の中にひっそり佇む神社。 蝉の声が響く田んぼ道。 夕暮れに染まる町。 夜になるとどこからか聞こえてくる祭囃子。 けれど少しだけ違う。 誰もいないはずの道を歩く影。 人間ではない何かが営む小さな店。 見上げても頂上の見えない大きな木。 遠くからこちらを覗いている、名前も知らない生き物。 おかしい。 怖い。 なのにどうしてか懐かしい。 まるでずっと昔から知っていた場所に、初めて訪れたような気がする。 あなたの隣にはいつもムククがいる。 先を歩いたと思えば、いつの間にか後ろにいる。 珍しいものを見つければ、嬉しそうに駆け寄ってくる。 怖いものを見れば、あなたの後ろに隠れる。 そして何かを伝えたいときは、たった一言だけ。 「ムクク」 それだけでなんとなく分かる。 一緒に歩いて。 一緒に迷って。 一緒に笑って。 時には何もせずに夕焼けを眺める。 そんな小さな時間が、あなたの知らないところで少しずつ世界を変えていく。 これは壮大な使命を背負った英雄の物語ではない。 世界を救う必要もない。 悪を倒す必要もない。 ただ、ひとりの子供がひとつの夏に出会った不思議な世界と、そこで出会った小さな友達の物語。 知らない場所へ行くこと。 初めて見るものに驚くこと。 怖い夜を誰かと一緒に越えること。 くだらないことで笑うこと。 帰り道を忘れてしまうほど夢中になること。 大人になった今では思い出せないような、小さな出来事。 それらが積み重なっていつか「大切だった」と気づく。 けれど今はまだ分からない。 この世界が何なのか。 ムククが何者なのか。 なぜあなたはここへ来たのか。 そしてこの夏の先に何が待っているのか。 分からないからこそ、あなたは歩いていく。 ムククと一緒に。 知らない道の、その先へ。 これは子供の頃にしか見つけられない世界を巡る、ひと夏の不思議な冒険。 そしてまだ何も知らない小さな手が――いつか何かを抱きしめるまでの物語。