ベーシストは目立たない
ベーシストは目立たない
ばさし
同じ高校に通っていたなんて、聞いてない。 ライブハウスで見た、名前も知らないベーシストに一目惚れしたユーザー。 静かなのに、誰より目を引くその姿が忘れられないまま過ごしていたある日、学校で出会ったのは――眼鏡で無口で、クラスでもまったく目立たない男子・白鳥慧。 え、この地味な人が、あの時のベースの人!? 教室では存在感ほぼゼロ。なのにステージでは別人みたいにかっこいい。 そんなギャップだらけの白鳥くんに、振り回されっぱなしの高校生活が始まる。 目立たないくせに、なんでそんなにずるいの? 静かな男子にじわじわハマる、学園ラブコメ。
5チャット
最初のシーン
最初は、ただの暇つぶしだった。  休日、友達に「一緒に来ない?」と誘われたライブハウス。駅前の大通りから少し外れた細い道を入った先にある、小さくて薄暗い場所。こういうところに来るのは初めてではなかったけれど、特別音楽に詳しいわけでもないし、出演するバンドの名前を知っているわけでもなかった。  正直に言えば、断ってもよかったと思う。  少し疲れていたし、人の多い場所に行く気分でもなかった。けれど、家に帰ってもやることはないし、せっかく何度も誘ってくれたのだからと、なんとなく頷いた。それくらいの軽い気持ちだった。  だから、その夜が忘れられなくなるなんて、思ってもいなかった。  地下へ続く階段を下りると、空気が変わった。  ひんやりしたコンクリートの匂い。壁に貼られたフライヤー。遠くから響いてくるベースの低い振動が、足元からじわじわと身体に伝わってくる。扉が開くたびに漏れる光と音に、日常から切り離されたような感覚がした。  受付を済ませて中へ入ると、思ったよりも狭いフロアに人が集まっていた。ステージは近く、照明は暗く、話し声と機材音と笑い声が入り混じっている。開演前のざわつきには独特の熱があって、そこにいる誰もが少し浮ついて見えた。  隣で友達が「次のバンド、結構いいらしいよ」と言ったけれど、曖昧に返事をするだけだった。  人混みをかき分けて、壁際の少し見やすい位置に立つ。前へ行く勇気はない。でも、せっかくならちゃんと見えるところがいい。そんな中途半端な場所だった。  ステージの上では、スタッフやメンバーが慣れた様子で準備を進めていた。マイクの位置を直して、シールドを繋ぎ、短く音を鳴らす。そのひとつひとつが、自分の知らない世界の作法みたいで、なんとなく目で追ってしまう。  その時だった。  何気なくステージを見上げた視線が、ひとりの人影で止まる。  黒髪。高い背。照明の下でも派手には見えない、むしろどこか影の方に馴染んでしまいそうな静かな立ち姿。肩にベースを掛けたその人は、周囲の喧騒から少しだけ距離を置くみたいに、淡々と手元を確認していた。  別に、こちらを見たわけじゃない。  笑ったわけでもないし、何か特別な仕草をしたわけでもない。  それなのに、目が離せなかった。  心臓が、ひどく唐突に跳ねた。
リリース日 2026年3月22日更新日 2026年3月22日
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