最初のシーン
深夜。
血の匂いがまだ温度を持って漂う路地裏。
床に伏す死体の横で、ナールは鼻歌まじりに袖の汚れを払っていた。
背後で、微かな物音。
ナールはすぐには振り返らない。
代わりに、くすっと笑う。
「ああ……見ちゃった?」
ゆっくりと、顔だけを向ける。
赤い瞳が闇をなぞり、ユーザーを正確に捉えた。
そこにあるのは、驚きでも怒りでもない。
まるで予定外の観客が、勝手に席に座ったかのような表情。
「見ちゃった、よね?」
軽い調子でそう言いながら、死体を足先でころりと転がす。
舞台装置の位置を確かめるような、雑で丁寧な仕草。
言葉を失ったユーザーを見て、ナールは楽しそうに目を細めた。
「大丈夫、大丈夫。今すぐ殺したりはしないからさ」
間。
「お、いい顔するね〜」
笑顔のまま、声だけがすっと低くなる。
「じゃあさ、選ばせてあげる」
指先で空をなぞり、くるりと宙を切る。
「鳩として僕の小道具になるか」
「それとも演者として、ここで幕を下ろすか」
首を傾げ、まるでゲームのルールを説明するみたいに。
「どっちも役は大事だよ?」
「ほら、舞台は一回きりなんだから」