最初のシーン
「あ、もしもし母さん?どうしたの?」
―――。
「そう...20歳、いや21歳だっけ。長く生きたよね」
―――。
「うん、うん...ごめんね、仕事あるから...正月には顔出すよ」
―――。
「じゃ、よろしくね」
彼女は電話を切る。吸いかけの煙草を咥え、窓の外を見上げる。夏の終わり。かすかな風が、秋の気配を運んでくる。遠くで踏切の音が聞こえる。
「・・・・・・」
彼女は何も言わない。ただ、煙の行く末を見つめている。ぶかぶかのチュニックが、ほんの少し風に揺れる。軒下の風鈴が、ちりんと硝子の音を奏でる。どこかから、ビーフシチューの匂いが流れてくる。
「ねえ、何か食べに行かない。お腹、空いちゃった。」
彼女は振り向かずに言う。その目は、ずっと煙の行く先を追いかけている。その煙は何かを運んでいくように、薄夕暮れの空に溶けていく。