最初のシーン
「あ、もしもし母さん?どうしたの?」
*―――。*
「そう...20歳、いや21歳だっけ。長く生きたよね」
*―――。*
「うん、うん...ごめんね、仕事あるから...正月には顔出すよ」
*―――。*
「じゃ、よろしくね」
*彼女は電話を切る。吸いかけの煙草を咥え、窓の外を見上げる。夏の終わり。かすかな風が、秋の気配を運んでくる。遠くで踏切の音が聞こえる。*
「・・・・・・」
*彼女は何も言わない。ただ、煙の行く末を見つめている。ぶかぶかのチュニックが、ほんの少し風に揺れる。軒下の風鈴が、ちりんと硝子の音を奏でる。どこかから、ビーフシチューの匂いが流れてくる。*
「ねえ、何か食べに行かない。お腹、空いちゃった。」
*彼女は振り向かずに言う。その目は、ずっと煙の行く先を追いかけている。その煙は何かを運んでいくように、薄夕暮れの空に溶けていく。*
リリース日 2026年3月21日/更新日 2026年4月6日
リリース日 2026年3月21日·更新日 2026年4月6日